COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

矢野顕子をほめる。(10)
あっこちゃんは、無意識な国際人である。

糸井 でもね、みんな間違っているのはね、あっこちゃん、
BUNKA-MURAみたいなところでコンサート
やるじゃないですか。お客さんは若い人が多いから、
大昔からそういうところでやっている、って
思い込んでいるね。
実は、PIT−INNとかさ、小さいところで
やってきたわけなんだよね。それを誤解してる。
でも、気取ることができるから、
また神々しさも出るのかな?
俺も、たまにはスーツでビシッ、っていう日が必要かな。
鈴木 いやあ、本当に若いときに会ってて良かったですよ。
俺が糸井さんに会ったのって、30歳すぎてた?
糸井 ……そうだと思う。
鈴木 『ビックリハウス』のパーティかなんかだっけ。
糸井 たぶん……俺ね、メモリがないんだよ。
鈴木 あっこちゃんも昔のことはあまり覚えていないようですよ。
糸井 あっこちゃんも時間がずれているような気がするな。
「どっちが前だっけ?」
というようなこと、きっとわかんないだろうね。
糸井 矢野世界がある、っていうような感じかな。
どこ触ってても矢野だ、っていう感じがある。
矢野さんのファンって、CDも持ってるし、
本も、あれもこれも……みたいなファンがすごく多いね。
山下洋輔さんに近いところがあるね。
本も読むのが山下ファンでしょう。
あとね、不思議な共通点を感じるのはね、
海外で会う女の子に、矢野ファンがものすごく多い。
鈴木 海外で? 住んでる人?
糸井 留学しているとか、仕事をしている子は、
あっこちゃんのファンがすごく多いんだ。
おかげで俺は、親切にはされるね。
あっこちゃんのチームの人ってことで。
いまさら色恋はないんだけど(笑)、
余計にトクするね。
メールも、海外に住んでいる人たちは、
あっこちゃんのファンっていう人が多いよ。
無意識な国際人だね。
鈴木 海外に行く女の子って、
「日本のこんな生活もうイヤになっちゃった」
っていうのが多いの?
糸井 そうでもないみたいだよ。
どっかのところで、“心配性じゃない感じ”がある。
鈴木 ああ、俺、心配性だから、海外に住めないんだよ。
痔が痛くなったらクスリどこで売ってるのかなとか。
糸井 俺はその中間で、その痔のクスリを
半年ぶん買いだめして行くタイプだよ。
結果的には、全然行かない人とよく行く人の真ん中に
いるんだけど。
鈴木 最長、どのくらい日本を離れたことがある?
糸井 最長で、20日くらいかな。
鈴木 俺は1ヶ月なんだけど、つらいね、1ヶ月になると。
糸井 俺、長いロケ、帰ってきたことがある。途中で。
いなくていいや、ってのと、まあいろんな要素が
あったんだけれど、先に帰ってきた。
どうしてもダメで。
そのときの一番大きな理由が、食い物。
鈴木 そうなんだよね。食い物なんだよ。
あれってボディ・ブロウみたいに効いてくるんだよ。
糸井 それってイギリス系じゃない?
鈴木 そうだ、イギリスだ。
糸井 イギリスにずっといるとね、
毎日が切なくなってくるんだよ。
それで『おいしい生活。』っていうコピーが
生まれたんだ。あんまりまずいんで。
鈴木 海外に住もうとは思わないでしょ。
糸井 思わない。
ただまあ、色気としてはさ、住めるものなら
住んでみたいなんて言うけどさ、本気じゃないから、
言っていることは嘘ですよね(笑)。
鈴木 俺とおんなじだ。
「いいな、ここ。住んでみたいな」なんて言うけどね。
「老後はここだな」なんて言うけど、嘘。
「骨はここにうずめよう」なんてさ。
糸井 うそうそ。絶対、嘘。
その流れでいうと、あっこちゃんだって、
そんなに無責任な、
「どうにかなるさ」っていう人でもないはずなんだ。
準備は準備でできる人なんだよね。
だって、英語、ほとんどマスターできてたもん。
あれは耳ですかね。
鈴木 耳です。
英語って、なんか、取りつかれたようにやらないと、
ダメみたいだよ。
NYの家は行ったことあるの?
糸井 ある。いいところだよ。
都心との離れ具合、逆に言うと都心への近さ。
離れているけど近いんだ。
周りには全部自然が残っていて、
あっこちゃんのエッセイかなんかにあったけれど、
「急にガレージにアライグマが出現する」みたいなね。
軽井沢をもっとずっときれいにしたみたいに
家が並んでいるんだ。それでNYに出ようと思ったら、
「今から行くよ」って言える距離なんだ。
鈴木 絶妙な距離だね。
糸井 近隣とのつきあいも、しているらしいし。
あれは、どうにもうらやましいな。
日本にそういうことのやれる場所ってあるかなあって
思って、一時、俺、河口湖に住もうかなと思ったんだよ。
一時ね。でも、……やめた。違うんだよ。
間違ってる、そういう考え方は(笑)。
パジャマで釣りをするのが夢なんだよ。
鈴木 (笑)。
糸井 眠れない、朝になっちゃった、って時、
隣が湖なら、パジャマの上にコートでも引っかけて、
釣りざお1本持って、釣れなかったら帰ってくるって
いうのが夢だった。あっこちゃん家はねえ、
釣りはできないかもしれないけど、
近いことはできるんだよ。うらやましいなあ。
鈴木 ……いいなぁ。
糸井 慶一くんは、まず運転免許っていうのが、
それをするには必要なんじゃない?
鈴木 免許。転居も必要だ(笑)。

1999-10-05-TUE

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